2025.03.12 Wed
年金受給の得する年齢
60歳繰り上げか65歳からの繰り下げで損をしない方法
国民年金と厚生年金の仕組みと受給条件
国民年金と厚生年金は、日本の年金制度を構成する二つの柱ですが、それぞれの仕組みや受給条件には明確な違いがあります。
国民年金は、現行制度では全国民に20~60歳までの加入義務があり、基本的な生計を支えるための年金です。
一方、厚生年金は、会社員や公務員が加入する制度で、報酬に応じた給付が受けられます。
それぞれの受給条件も異なり、国民年金は原則として65歳からの受給が基本ですが、厚生年金は加入期間や年齢によって変わります。
厚生年金に加入することで国民年金にも自動的に加入することになり、年金受給額も国民年金よりも多く受け取ることが可能です。
受給条件はそれぞれ合計で10年以上の加入期間の要件があり、支払年金額や加入期間によって毎月の年金支給額が変動するようになっています。
どちらの年金が自分に関連するのかを理解し、自分に合った受給計画を立てることが大切です。
加入期間や受給目安金額などは日本年金機構のねんきんネットのサービスサイトで確認することができます。
年金受給の最適年齢と繰り上げ・繰り下げ制度
65歳からが年金受給の基準となりますが、60歳から前倒しで受け取る「繰り上げ受給」や、最大75歳まで待つ「繰り下げ受給」も選べます。
繰り上げ受給の減額率は最大30%で、受給開始年齢は60歳から65歳の間で選択できますが、減額率は生年月日によって変わります。
具体的には、1962年4月1日以降に生まれた方は1ヵ月繰り上げるごとに0.4%減額となり、最大24%の減額となります。
それ以前に生まれた方は0.5%の減額率となるため、最大30%減額されてしまいます。
一方、繰り下げ受給では、受給開始年齢を65歳以降に遅らせると、1ヶ月遅らせるごとに受給額が0.7%増額されます。最大で75歳まで繰り下げることが可能で、この場合、最大84%の増額が期待できます。
ちなみに国民年金は老齢基礎年金が受給され、厚生年金の場合は老齢基礎年金と老齢厚生年金と二階建てで年金を受給できます。
老齢基礎年金と老齢厚生年金は以前は別々に繰り上げや繰り下げ受給可能でしたが、2022年の法改正により分けて受給することができなくなっています。
繰り上げ受給は早く年金を受け取れる一方、生涯にわたって減額されます。反対に繰り下げ受給は、待つ期間に応じて増額されます。自身の生活設計に合わせて選択することが大切です。
寿命にベットする繰り上げ繰り下げ
繰り上げ受給のメリットと注意点
公的年金は、老後の生活設計において重要な役割を担っています。受給開始年齢は原則65歳ですが、60歳から75歳の間で選択することができます。
今回は、特に注目されることが多い「早期受給」について、メリット・デメリットを様々な観点から詳しく解説していきます。
繰り上げ受給のメリット
1. 早期の生活資金確保
60歳での定年後、次の仕事が見つかるまでのつなぎ資金として活用可能で、預貯金や退職金だけでは不安な方の生活資金の補填に有効
2. 健康寿命を前提とした有効活用
平均健康寿命は男性72歳で女性75歳を考慮すると、元気なうちに受給するメリットがあり、趣味や旅行など、アクティブなシニアライフを楽しむための資金として活用可能
3. インフレ対策としての活用
将来的な年金支給額の実質的な目減りを考慮し、現在の価値で確実に受け取れる利点があります。また、数年ですぐに改正が実施される将来の年金制度変更リスクを回避することにもなる
繰り上げ受給の注意点とデメリット
1. 税制面での影響
公的年金等控除額が65歳未満は最大108万円、65歳以上は最大158万円と大きくことなり、60歳からの受給開始では控除額が少なく、手取り額への影響が大きくなる。
他の収入がある場合、総所得金額が増えることで各種控除や住民税および所得税に影響してしまう
2. 社会保障制度への影響
老齢年金と障害年金との併給調整により、障害年金を同時に受給できなくなる可能性があるため、どちらか金額が大きい方を選ぶことになります。
さらに社会保険に加入したままの第2号被保険者の場合は厚生年金や介護保険料の算定額が給与所得のみで行われますが、公的年金控除額の108万円をこえる年金収入がある場合は、確定申告が必要となり所得税や住民税が増える場合がある
3. 生涯受給額への影響
80歳前後からが通常受給との損益分岐点となり、平均寿命は男性81歳、女性87歳と考慮すると、長生きするほど生涯受給額が大きく減少していくことになる。
また配偶者や子供の加給年金や振替加算額の減額を受ける
4. 制度利用後の変更不可
一度繰り上げ受給を選択すると取り消しができないため、生涯減額率が適用されてしまう。
受給額が減額されているので将来の経済状況や医療費用の負担率が大きくなる可能性がある
5. 将来的なリスク
平均寿命より長生きした場合の老後資金不足リスクや医療費・介護費用の増加への対応が困難になる可能性がある。
マクロ経済スライドの延長やインフレ進行時の実質的な受給額減少がより深刻化する可能性がある
これらの点を踏まえ、持病がある方や配偶者の扶養が必要な方、定年後も継続的な収入が見込める方や十分な貯蓄がある方は慎重に判断する必要があります。
繰り上げ受給の決定前に、ファイナンシャルプランナーや社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。
人は想像より長生きしてしまう
年金受給開始年齢の損益分岐点
繰り上げ受給と通常受給の損益分岐点は、おおよそ80歳前後とされています。一方、繰り下げ受給を選んだ場合、85歳前後が分岐点となります。
年金額も支給額も上限が定められている国民年金における老齢基礎年金の場合、40年支払続けた場合に65歳から受給した場合に元が取れるのが10年後の75歳ごろとされます。
一方、60歳から繰り上げ受給した場合は24%の減額率(1962年4月1日以後に生まれた人)とした場合、元が取れるのがおよそ13年後の73歳2ヵ月からになります。
1962年4月1日以前に生まれた人は減額率30%となるので、14.5年後の74歳半ばになります。
繰り上げ受給の方が老齢基礎年金が元が取れる時期が早いのは、65歳から受給するよりも5年間多く受給しているためです。
その後も80歳ぐらいまでは繰り上げ受給の方が総受給額が大きいのですが、それ以降は65歳で受給した人は繰り上げ受給よりも毎年毎年18万円ずつ加算されていき、生涯それが続きます。
現状の物価や制度下では、月々1万5千円ほどの差額がありますので、繰り上げ受給をした場合は、長生きをすればするほど、老後の生活資金に影響がでると言えます。
また、月額20万円の老齢基礎年金と老齢厚生年金を繰り上げ24%の減額で60歳から受給開始すると15.2万円に減額されますが、75歳まで待つと毎月受給できるのが36.8万円と破格の増額がなされます。
自身の健康状態や家族構成、貯蓄状況などを考慮して慎重な判断が必要になります。
年金受給の開始年齢は、経済的に大きな影響を及ぼします。早めに受け取ると一時的には助かる一方で、長年で見ると受給額が大幅に減少することも。
逆に、遅らせることで受給額が増える可能性がありますが、待つ間の生活が苦しくなることも。
自身の健康状態、貯金、生活費、ライフスタイルを踏まえた上で、どのタイミングが最も自分にとって得なのかを考えてみましょう。
寿命にも損益分岐点がある
平均寿命と健康寿命から考える年金計画
最後に、日本人の平均寿命と健康寿命を考慮した年金計画の重要性について説明します。
日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳。一方、健康寿命は男性72歳、女性75歳です。この差は介護が必要になるまでの差分期間を示しています。
平均よりも長生きすることを前提に、年金をどのように活用していくか、またどのような点に注意して年金計画を立てるべきかは重要ではありますが、健康寿命がいつまで続くかという点についても、ある程度予測しておくことも大切です。
2020年の人口動態調査に基づく婚姻関係別の平均寿命の目安によると、独身男性の場合は、平均寿命が67.2歳と短いため、健康寿命はおそらく60歳前後(約58~62歳程度)ではないかと推察されています。
独身女性の場合は平均寿命は81歳程度で健康寿命も70歳前後とされており、既婚者女性と比べると短くなります。
このように、年金の受給開始年齢については、世帯状況や健康状態、保有資産状況などによりさまざまになります。
ただし、平均寿命や健康寿命はあくまでも数値上の目安となり、急に大きな病気にかかってしまったり事故で大けがをする場合や、健康状態が良くないにもかかわらず予想以上に長生きする人もたくさんいますので、一概にどの年齢が最適であるかを決めるのは、とても難しいといえるでしょう。
どうしたらよいか判断に迷う場合は、今後の制度変更やインフレの影響、税制面やそのほかのメリットデメリットから、65歳での定額受給にしておいた方が無難かもしれません。
余裕がある方であっても、繰り下げ受給にはせずに定額受給をしておくと、健康寿命のあるうちに少しでも資金を活用しやすくなります。
さらに年金で生活費をある程度まかなうことで、保有資産の生前贈与や相続税対策を含めて、遺族の方への心配毎を減らし、より安心した老後を過ごせるのではないでしょうか。
健康寿命こそが真の寿命かもしれない
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