2024.11.13 Wed 2024.11.14
日産自動車リストラ9000人 雇用の黙示録
工場制機械工業の終焉
日産自動車は2000年以降、外国人経営者の起用とともに、幾度もの大規模な人員削減を実施してきました。
この流れは日産だけでなく、日本を代表する大手製造業にも広がっています。
例えば、2023年に上場廃止となった東芝や、パナソニック、ソニー、NEC、富士通、日立製作所なども、過去10年間で数万人から10万人規模の人員削減を行ってきました。
大量生産と大量消費を前提に、BtoCやBtoBの事業展開、海外に工場を設置するグローバル多角化展開など、マンパワーを中心に世界規模で製造分野が収益の大きな割合を占めている大企業です。
これらの企業には共通の特徴
- 大量生産・大量消費型のビジネスモデル
- 法人・個人向け事業の展開
- 世界規模での生産拠点の設置
- 製造部門が収益の中核を担う
一見、機械化によって生産性を極限まで高めたように見える工場でも、実際には多くの工程で人の手が必要不可欠でした。
また大リストラ敢行した日産以外の企業の多くは、生業から他業種へシフトする多角化事業にも積極的に参入したため、損失を拡大させるケースも少なくありません。
最近発表された日産の新たなリストラ計画を題材に、以下の観点から分析を試みます
- 工場制機械工業の転換期における課題
- 人材依存型事業が抱えるリスク
- 製造ライン従事者が直面する課題
- 企業側と従業員側、双方の視点からの考察
今回は再び起こる日産のリストラ計画をもとに、工場制機械工業の終わりとマンパワー事業のリスク、ライン業務への従事することのリスクなど、事業者と被雇用者の二つの視点から分析してみます。
日産リストラの歴史 過去25年から現在
バブル(1986年12月から1991年2月頃まで)後の1990年代に経営危機であった日産を復活させるため、リストラを開始したのが辻義文氏。座間工場の閉鎖も辻氏が英断。
1999年、経営危機の日産はルノーの支援を受け、タイヤメーカーのミシュラン米国法人とルノーで大リストラに豪腕をふるった当時ルノー副社長のカルロス・ゴーン氏を日産の最高執行責任者として向かい入れ、カルロス・ゴーン主導で「日産リバイバルプラン」を実施。国内5工場閉鎖と2万1千人の人員削減を行い、連結従業員数は2000年から2001年で約1.7万人減少。
日産リバイバルプランは直近3年間の累積赤字額7261億円の赤字があり、有利子負債は2兆円を超えていたが、数年で返済し黒字化させる。
2019年には西川社長時代に1万2500人規模の人員削減計画を発表。2019年4-6月期の営業利益が98.5%減となる中での大規模リストラだった。
2024年11月には更に9000人規模の追加削減を発表。EVシフトの遅れや中国市場での苦戦、業績低迷が背景。2024年上半期の営業利益は90.2%減の329億円まで落ち込み、固定費3000億円削減を計画している。
なお、資本提携関係にあるルノー(日産の大株主で筆頭株主はフランス政府)の影響下にある企業構造は継続している。
日産といえばリストラが定着してしまう
日本から消失していく工場制機械工業
日本の製造業の苦境を象徴するように、日産自動車は世界市場で厳しい局面に直面しています。北米市場では、ハイブリッド車(HV)の投入が競合他社に比べて大幅に遅れ、市場シェアを落としています。
トヨタやホンダが早くからHV車のラインナップを充実させ、環境志向の強い消費者の支持を集める中、日産の出遅れは致命的でした。
一方、世界最大のEV市場である中国では、さらに深刻な状況に陥っています。
テスラや比亜迪(BYD)をはじめとする現地メーカーによる激しい価格競争が展開され、日産の競争力は著しく低下。中国メーカーは政府の支援も受けながら、高性能かつ手頃な価格のEVを次々と投入し、市場を席巻しています。
この状況は日産に限った話ではありません。かつて世界をリードした日本の家電メーカーも、韓国や中国企業の台頭により、グローバル市場での存在感を失いつつあります。
液晶テレビや半導体など、日本が得意としてきた分野で、次々と主導権を失っているのです。
適応が遅れる企業は淘汰される可能性が高い
マンパワー収益は減益でリストラ加速
企業の収益構造において、人件費は最も大きな固定費の一つです。
特に、売上や利益が人的サービスに依存する業態では、業績悪化が即座に人員削減の圧力となって表れます。
例えば、小売業では店舗スタッフの人件費が売上高の15~20%を占めることが一般的です。
業績が悪化すると、まず人員の削減や労働時間の短縮が検討されます。
同様に、製造業でも生産ラインの従業員は、景気変動の影響を直接受けやすい立場にあります。
最近では、デジタル化やAI技術の進展により、人手に依存してきた業務の自動化が加速しています。
銀行の窓口業務や飲食店の接客など、従来は人的サービスが不可欠と考えられていた分野でも、省人化の波が押し寄せています。
特に注目すべきは、一度リストラが始まると、その影響は単なる人員削減にとどまらないことです
- 残された従業員の労働負荷増加
- モチベーションの低下と組織文化の悪化
- 技術やノウハウの継承の断絶
- 企業の長期的な競争力の低下
このように、人件費依存型のビジネスモデルは、経営環境の変化に対して極めて脆弱な構造を持っています。
企業は持続可能な収益構造の構築と、従業員のスキル転換支援を同時に進めていく必要があるでしょう。
このトレンドは今後も続くと予想され、企業も従業員も、従来の雇用モデルからの転換を迫られています。
新しい技術やビジネスモデルへの適応力が、これまで以上に重要になってきているのです。
- マンパワーは四則演算で経費計上されてしまう
さらにはこれまでどうしても人間による判断が必要な組み立ての工程も、もうじきAIによる機械制御で多くの人間の仕事が取って変わられるのはそう遠くはないのが現実です。
時代は工場制AI機械工業へ
大リストラ社員はどこへ?フェイクリストラ
リストラと聞くと、社員が仕事を失い、途方に暮れる姿を想像しがちですが、実際には事情が異なる場合もあります。
最近、大企業のリストラが報道されていますが、すべての社員が即無職になるわけではなく、政府主導のサポート体制や新たな企業の創設によって再就職先が用意されているケースも少なくありません。
例えば、官民ファンドであるINCJ(産業革新機構)の支援を受けて設立された企業には、リストラされた社員が再び活躍する場が提供されています。
中でも、「ジャパンディスプレイ(JDI)」や「JOLED」などが設立され、ソニー、東芝、日立製作所、パナソニックなど大企業からリストラされた社員が移籍しています。
JDIとJOLEDの事例
2012年に設立されたJDIは、ソニー、東芝、日立製作所から多くの社員を迎え入れ、
ディスプレイ業界に新たな風を吹き込みましたが、2014年の東証上場後は10期連続で大きな赤字状態のまま業績不振が続いています。
一方で、2015年にはJOLEDも設立され、ソニーやパナソニック、さらにはJDIからの社員も加わり、次世代ディスプレイ技術に挑戦してきました。
しかし、JOLEDも2023年3月に負債総額337億円を抱え、民事再生手続きを申請し、2024年11月には解散が決議されました。
政府主導の支援による再就職
これらの企業が設立された背景には、政府の支援や官民ファンドが関与しており、リストラされた社員が再び活躍する場が提供されています。
このような支援があることで、リストラされた社員の多くは新たな企業でスキルを活かして再スタートを切ることができているのです。
実際、メディアでの「大リストラ」という報道の一部には、実情と異なる過剰な表現も見られます。
再就職の支援体制が整っている場合も多いため、リストラが即無職や就職難などにより資産を失うことを意味するとは限りません。
しかし、いくら再雇用しても労働集約型の雇用スタイルがデフォルトの社会構造のうちは、どれだけ雇用を創出しても肝心の需要を満たせない事業展開と経営実態の元では、従来型の雇用スタイルに対して大きな矛盾が生じて維持できなくなります。
近い将来、わたしたちの多くが信じていた労働の提供による雇用という概念の多くは終焉を迎え、ベーシックインカムなどを含めた概念下で大きな変貌を遂げるかもしれません。
大企業は純粋な民間企業ではない
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